色は匂へど散りぬるを

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  「……幾分かましになるかと思ったが…餓鬼は何を着ても餓鬼だな」 「なんだと」 「先ず髪を伸ばせ。話にならん」 わらしの言い草にカチンと来たけど、昔の感覚なら結えるくらいの長い髪が美しい大人女性の前提条件なんだろう。 決して色気不足と言う訳ではない。…と思いたい。 菊さんの言う通り、無理矢理にでもアップにしてくれば良かったのか。 若干ふてくされながら襟足を触っていると、目の前に杯が突き出された。 「まあ良い。今は着てきた事を重んじてやろう。注げ」 「え、良いの?」 「世話が来るまでだ」 「うん」 柳太夫が私に徳利を持たせてくれる。 その際に持ち方や傾け方をさり気なく直し、御酌の作法を教えてくれた。 私の注いだお酒をわらしが一口で煽るのを見ていると、ほんの少しだけ大人の仲間入りをした気分になる。 こんな事、夏生がいたら出来ない。 夏生は奉納物を運び入れる時点でいなかった。 今日もおじさんに呼ばれ、本宅にいる。 毎日呼び出されていると言うことは、また何かトラブルでもあったんだろうか。 私一人で廓を仕切って、夏生が帰ってくるタイミングを見計らって直純さんの家に帰る。 そんな生活が何日か続いた。  
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