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「箒」
「ほうき!懐かしい!でも作り方が違うんだね」
「梯子」
「あっ、四段梯子!それから片方摘むと東京タワーになるんだよ。違う違う、こう」
わらしの手の中で赤い糸が形を変える。
そこら辺にあったただの頼りない糸だけど、毛糸なんかよりずっと綺麗に見える。
わらしはこれを「いととり」と言った。
「草鞋」
「おおっ…!それっぽい!」
「大名駕籠」
「それはよくわかんない」
「出雲大社」
「ええっ!?な、何それ!どうやったの!?凄過ぎる…!」
生き物のように次々と姿を変える糸に釘付けになる。
糸一本でこんなに盛り上がるとは。
というより、わらしが凄い。
いや、テレビやゲーム機を持たなかった時代の人なら結構出来るのかも。
でも、百年以上も前のことを覚えているのが何より凄い。
人の名前は覚えないくせに。
「五重塔」
「クォリティー高っ!昔の人って凄いんだね」
膳をずらし、膝を突き合わせてわらしの掌を覗き込む。
楽しかった。
最近のわらしはその名の通り子供にしか見えない。
喋り方が直純さんと似ているせいか、一緒にいるととても和んだ。
糸を見つめる伏し目の長い睫を盗み見て、いつかわらしを笑わせてあげたいと思った。
…たぶん、楽しかったのはこの日までだったんだろう。
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