色は匂へど散りぬるを

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  他の誰の気配も感じない。 なんで誰もいないの。 なんでこんな事になっているの。 愕然として暗くなる視界に煌めく物が映る。 膳の下にも、私のすぐ真横にも。 散らばるそれは、色とりどりの硝子のおはじきだった。 そうだ。 私はわらしとおはじきをして遊んでいたんだ。 他の女郎さんの出入りはなかったけど、私達の脇にはちゃんと太夫が控えていたはずだ。 それから? それからどうなった? 意識が明瞭になっていくのに、何故かその後の事が思い出せない。 柱時計が示す時間からすると、さほど経っていないはずなのに。 わらしは私に覆い被さりながら白地の帯に軽く指をかけた。 それだけなのに、きつく締めていたはずの帯が緩んだのを感じる。 絶対絶命のピンチに指一本動かせない自分が歯痒い。 「……!」 夏生を避けまくっていた罰が当たったのかもしれない。 皆の忠告通り、何でもっと用心しなかったんだろう。 わらしはもう「そういう」事をしないのかと思ってた。 なっちゃん。 なっちゃん。 こうなってから夏生を呼ぶだなんて、なんて都合が良いんだろう。 鎖骨に落ちる髪と裾を割って入ってくる冷たい手。 心臓が凍り付く。  
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