色は匂へど散りぬるを

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  倒れた襖の向こうに夏生と女郎さん達の姿を見つけ必死で叫ぶ。 夏生の後ろからは女郎さんが息を呑む音が聞こえた。 物音ひとつしなかった部屋にたくさんの人の気配が流れ込み、安堵で身体中の力が抜けていく。 襖は夏生が蹴破ったらしい。 もしかしたら、なにか不思議な力で開かなかったのかもしれない。 夏生は私達を見ると目をつり上げ、怒りを露わに座敷に踏み込んできた。 「クソわらし…!」 そのまま何の躊躇もなく、私の上にいたわらしの脇腹を蹴り飛ばす。 わらしの身体が容易に畳に転がるのを見て悲鳴を上げた。 「…!ち、ちょっと…!」 それは冬馬くんの身体…! 目を丸くして身体を起こそうとすると私に駆け寄ってきた女郎さん達に支えられ、肩に煌びやかな羽織を掛けられる。 それでやっと自分が今、あられもない姿でいることに気付いた。 慌てて前を掻き合わせると、羽織を掛けてくれた菊さんに部屋から出るように目で促される。 立ち上がると帯が足元にすとんと落ちて血の気が引いた。 …こんなに簡単に脱がせられるものなのか。 「契約違反だ」 地を這うような夏生の声。 わらしは仁王立ちする夏生の前であぐらをかき、自分の右手を見つめていた。 勢い良く蹴られたように見えたけど、ダメージはないらしい。    
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