色は匂へど散りぬるを

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  「…驚いたな。この俺に逆らうか」 わらしの呑気な声に、夏生の肩がピクリと揺れる。 …夏生が怒ってる。 背中を向けているのにこちらにもビリビリと肌を刺すような一触即発の空気を感じ、堪らず喉を鳴らした。 わらしがゆるりとした動作で夏生を見上げ、わざわざ感情を煽るように口の端を妖しくつり上げる。 「契約だと?この廓は全てが俺の為にある。ここで何をしようと俺の勝手。そういう契約ではなかったか」 「波瑠には手を出せない。わかっている筈だ」 「俺は常々貴様に忠告していただろう。それを聞いていながら怠ったのは貴様の落ち度だ。違うか」 「ふざけんな。こっちは最近お前の妙な力のお陰で振り回されてんだ。波瑠に近付けなくしてたのはお前だろうが」 夏生の言葉に目を見張る。 …最近夏生と顔を合わせなかったのは、そういう事だったらしい。 菊さんに手を引かれたけど、私は立ち尽くしたまま二人のやりとりを見ていた。 「俺は何もしておらん。何かしら力が働いたのだとすれば、そこの女の都合の良いように事が運んでいただけだろう」 「それはもうどうだって良い。二度とこいつに触るな。見るな。興味を持つな」 「貴様に何の権利がある」  
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