色は匂へど散りぬるを

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  …なんか、拙い雰囲気。 私の話をしているのに、聞いちゃいけないような気がして一歩後退しようとした。 それを菊さんが阻むように後ろからそっと肩に手を置く。 振り返ると、菊さんは夏生とわらしを真剣な眼差しで見ていた。 …見ろ、ってこと? さっきまで部屋から出るように促していたのに。 戸惑う私の耳に、夏生のはっきりとした声が届く。 「こいつは俺のだ」 「えっ」 …思わず声が漏れた。 今、何て言った? こいつって誰? 俺の、何? 私の声に夏生が反応し、横顔が僅かに見える。 でも表情が良くわからない。 「横槍を出されれば惜しくなるか」 「余計な事を考えるのをやめただけだ。次また人のもんに手を出そうとしてみろ。…そこから引きずり出して、ぶっ殺してやる」 「ほう」 「波瑠」 「…、は、はい」 絞り出した声は掠れていてあまりにも情け無い。 「着替えたら女郎の控え室にいろ。このクソガキと話をつけたら迎えにいくから。菊さん、悪いけどそれまで波瑠に付き添ってて」 「え?」 「俺も逃げないから、お前も逃げるな」 「……」 菊さんが簪を揺らしながら頭を下げる。 一度も振り向かない夏生の背中を見ていると緊張に似た痺れを感じ、羽織の中で手を握った。  
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