色は匂へど散りぬるを

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  そう言うとおもむろに着物を着た犬らしきものを描き始めるから思い切り吹き出してしまう。 『私が教えた美乳体操、続けてる?』 「……やってません…って、巨乳体操でしょ?なんでさり気なく美乳体操にすり替わってるんですか。本人でもないのに諦めないで下さいよ。巨乳になるって励まして下さいよ」 口を尖らして文句を言うと、菊さんは楽しそうに笑った後、急に色気のある目を私に向ける。 「な、何ですか」 『今夜から続けなきゃね。だって御世話様の』 滑らかに動いていたペンがピタリと止まる。 首を伸ばしてその手元を覗き込んだ時、控え室の襖が開かれた。 「…あ」 「悪い、待たせた。菊さん、ありがとうございました」 近付いてくる夏生の姿に、つい動揺してしまう。 真っ直ぐ顔を見たのは何日振りだろう。 その顔はまだ何となく険しく見える。 緊張から固まっていると、菊さんが頭を下げてからその場を離れた。 頼りどころを失って俯くと、突然手を取られて立たされる。 「行こう」 「え、…うん、」 手を引かれながらずんずん廊下を進む。 擦れ違う女郎さん達が丁寧に頭を下げてくれるけど、返事すら出来ない。 …だって、心臓が爆発しそうだ。  
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