色は匂へど散りぬるを

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  夏生なんかもう知らないって思ってた。 二度と関わるもんかって。 でもこうして温もりに触れてしまえばそんな強がりは脆くも崩れ去る。 掌の体温を感じながら前を歩く広い背中を見ていると、さっき夏生がわらしに言っていた言葉が私の頭の中をぐるぐると駆け巡った。 そのせいか、赤く灯った提灯が揺れているように感じる。 ゆらゆらと揺れる感覚の中、足裏に伝わるひんやりとした床だけが私を現に引き止めてくれているような気がした。 「…泣いたのか」 部屋に入るなり夏生が私の目を覗き込んだ。 「…泣いてない」 反射的に腫れぼったい目を隠すように逸らし、冷静さを装って言った。 あんまり見ないで欲しい。 こんな顔、見られたくない。 「嘘吐くなよ」 「なっちゃんの気のせいだよ」 「ごめん」 「……」 なんの謝罪なの、と言おうとして吸い込んだ息を呑み込んだのは、夏生の掌が私の頬を包んだからだ。 「……」 そのまま親指が目の縁をなぞる。 あまりにも自然な流れに反応することも出来ない。 「わらしには約束させた。もう二度とあんなことが起こらないようにする」 「……うん」 「…ごめんな。俺が悪いんだ」  
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