色は匂へど散りぬるを

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  「…私が気を抜いてたから」 どこか熱を孕んだ目が居心地悪い。 優し過ぎる体温が心地悪い。 その手から逃れようと僅かに身を捩るけど、夏生は手を下ろす気はないらしい。 「違う。俺がお前を信じなかったせいだ」 「……」 『こいつは俺のだ』 『人のもんに手を出そうとしてみろ』 あの言葉の意味を探るために真っ直ぐ夏生を見た。 至近距離で見つめ合う。 夏生の瞳に映る私が良く見える。 映った私の唇が動いた。 「……私は、夏生のものじゃない」 「……」 夏生の表情は動かない。 ただ私の心の中を覗き込むように暫く深く視線を絡ませてくるから、本心を見せまいと拳を握った。 「いいよ、待つから」 「…待つ、って何を…」 「波瑠がまたこっち向くのを」 「は…?」 「…って言っても、こうなった以上あまり気長に待てそうにないけど」 夏生の手が私の耳朶に触れ、全神経がぞくりと反応する。 喉がカラカラになったように張り付く。 夏生から与えられる熱のせいで、きっと頭の中も水分不足だ。 「…だって私、冬馬くんが好きなんでしょ?」 「振り向かせるよ」 「……元々、なっちゃんのことなんか好きじゃないかもしれないのに?」 「じゃあこれから好きにさせる」  
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