色は匂へど散りぬるを

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  視界が一気に歪み、夏生の肩に顔を押しつけて涙を堪えた。 「わ…わたし、まだ怒ってる」 「それもわかってる。全部含めて、一生償っていくつもりだから」 「…一生かかっても許せないかもしれないじゃん」 「いいよ、傍にいてくれるなら」 夏生の大きな手が私の背中を愛おしげに撫でた。 …きっと私の気持ちなんか、全部見透かされているんだろう。 夏生の体温は私の中でくすぶる汚い感情を引きずり出す。 それは涙となって押し付けていたTシャツに吸い込まれていった。 「波瑠」 まだ涙は止まりそうにないのに夏生が私の身体を起こすから慌てて俯く。 私の肩に手を置き、顔を覗き込んだ。 「…ちょっと、こっち向いて」 「…やだ」 「その顔見せろ」 「やだってば」 やだって言ってるのに、夏生は私の頬を挟んで問答無用上でを向かせる。 眩しさより、間近で見る夏生の笑顔に目の奥がクラクラした。 「酷い顔だな」 「……」 …誰のせいだ。 夏生の手を掴んで振り払おうとするけど、注がれる優しい視線に釘付けになってしまった。 「その顔、好きだよ」 「……」 「考えてる事がわかりやすくて、波瑠らしい」 「…何それ」  
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