色は匂へど散りぬるを

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  褒めてるのかけなしてるのかわからない言葉に眉を寄せると、夏生が可笑しそうに笑う。 かと思えば、その笑顔が自嘲へと変わった。 「こんなにわかりやすいのに…俺は波瑠の何を疑ってたんだろうな」 「なっちゃん…」 「ごめん」 「…もういいよ」 そんな顔を見ちゃったらもう責められない。 それに、夏生の気持ちは十分伝わった。 頬を挟む手から抜け出して夏生の胸にそっとおでこを付ける。 夏生が僅かに息を呑んで固まったのがわかった。 さっきまで平気な顔でこうしていたくせに、鼓膜に直接響いてくる夏生の心臓は驚くほど早い。 微動だにしない夏生の腰に手を回すと、夏生もためらいがちに私の背中に手を回す。 ぴたりと合わさった身体からお互いの体温が優しく混ざり合った。 「…なっちゃんの心臓、凄く早いけど」 「…うるせえな。お前のだって早いよ」 「好きだよ」 「…知ってる」 「何それ」 「俺も好きだよ」 「………知ってる」 笑い合った声から溢れてくるのは「幸せ」というやつだろうか。 今まで感じたどの「幸せ」ともタイプが違う。 むず痒くて照れくさくて、胸がドキドキと苦しくなるような。 酔いしれるような感覚に身を委ね、そっと目を閉じた。  
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