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急に恐ろしくなって夏生の手を握ると、小さな声で「大丈夫だ」と呟いてから握り返してくれる。
大丈夫なんかじゃない。
だってその指先は私より冷たくて、夏生の不安がひしひしと伝わってくる。
夏生の言い方からして、こんなことは初めてなんだろう。
嫌な予感が胸を掠めた。
「…ねえ、昨日のことと何か関係があるんじゃ…」
「……」
「だとしたら私のせいかも…」
「波瑠」
「だって、」
私の言葉を妨げるように夏生に肩を引き寄せられた。
「大丈夫だから。…余計なこと、考えるな」
耳元で聞こえる夏生の声が震えている気がする。
夏生の手を握りながらもう一度眠る冬馬くんを見た。
ひどい顔色は明らかにただ事じゃない。
その顔を見ていると、どうしても悪い方へと思考が引っ張られてしまう。
…夏生はずっと一人でこの恐怖と戦ってたんだ。
私にメールを送った時の気持ちを考えると切なくなる。
「…もう少し、様子を見よう。下に相談するのはそれからだ」
「うん…」
「…兄貴。…兄貴…」
小さな声で呼び掛けながら冬馬くんを揺するその横顔に胸が締め付けられた。
けど、冬馬くんは目覚めないまま。
無情な時計の針はぐんぐん進んでいく。
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