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その妙な感覚はほんの数秒にも満たなかったのかもしれない。
鐘が響き終わると共に身体が軽くなる。
そして、
「あっ…!」
冬馬くんの目が、ゆっくりと開かれた。
その身体に縋ろうとした時、向けられた感情のない瞳に息を呑む。
「…珍しい出迎えだな」
「わらし…?」
「なんだ、そのヒラヒラしたどこぞの水軍のようなものは」
冬馬くん…じゃない。
これは、わらしだ。
制服姿の私を横目に見ながら気怠そうに身体を起こすわらしに、夏生が掴み掛かる。
その横顔は怒りに震えていた。
「わらし、冬馬はどうした」
「トウマ?不躾に何だ」
「御贄だよ!」
夏生の余裕のない声に、わらしが胸倉を掴まれたまま眉を寄せる。
そして面倒臭そうに夏生の手を払い落とすと襟を乱したまま座り直した。
「わらし…冬馬くんが起きないの…。今は?今はどう?冬馬くん、どうしてるの?」
「知らん。そう言えば昨晩から随分と大人しい。いつもは五月蠅い程に話し掛けてくるが」
「…!」
「冬馬に何をした」
夏生の声はゾッとするくらい低くて、こちらまで身が竦む。
「何も」
「じゃあ何故意識が戻らない」
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