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…おばさんは今、「本当はあなたが御役目をやるはずだった」と言おうとした。
そんな事、夏生が一番良くわかってる。
酷い事を言われたはずなのに、夏生だって不安で仕方がないはずなのに。
なのに私を気遣う夏生の目は澱みなく真っ直ぐで、それがとても悲しい。
…隠さないで欲しい。
私にはちゃんと本心を見せて欲しいのに。
守る、なんておこがましいけど。
夏生に触れてあげたくてその手を取り、指を絡ませた。
夏生もぎゅっと握り返してくれる。
その仕草が甘えてくれているように感じて、少し泣きたくなった。
「変わったことがあったらすぐ連絡してくれ。…夏生もあまり無理をするんじゃないぞ」
事務所を出る時のおじさんの言葉だけが救いのような気がした。
「悪いな、変なとこ見せた。嫌な思いさせただろ」
「ううん…」
「本当は連れてくべきじゃなかったけど、波瑠を廓に残してくのも嫌だったから」
廓へ向かう従業員通路の階段を手を繋ぎながらゆっくり上る。
事も無げに私の心配ばかりする夏生は、今何を思っているんだろう。
「一応わらしの顔を見たし、お前はこのまま帰れよ。まだ直純さんとこにいるんだろ?」
ほら、また私のことばっか。
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