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夏生は息を吐くと、諦めたように小さく笑う。
「我慢…してたつもりはないんだけどな。お袋の言うことは正論だし、気持ちをぶつける相手が必要なら受け止めてやりたい」
「でも」
「いいんだ」
腕を引かれ、身体が傾く。
身体に回された腕にぎゅうっと力が込められた。
「…なっちゃん?」
「波瑠が傍にいてくれればそれでいいよ」
耳元で囁かれる穏やかな声に、胸が甘く疼いた。
…頼ってくれてる。
私には弱い部分を見せてくれるんだ。
「…話があるんだけど」
「…なに?」
顔を覗こうとしても夏生は顔を上げようとしない。
それどころか回した腕にさらに力が込められた。
「俺、」
何かを決意したような声に不安を覚える。
「…冬馬が起きたら御役目の任を代わろうと思う」
「……」
「ちゃんと正式に申し出るつもりだ」
「…おばさんに言われたから?」
「いや、自分の為。…もうあんな冬馬を見たくないし、お袋も追い詰めたくない」
「…わかった」
私の言葉に夏生が驚いたように顔を上げた。
止められるとでも思ったんだろう。
だけど私は夏生の気持ちを最優先にしてあげたかった。
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