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「今日から私も夏生と一緒に廓でご飯頂きます。なので、膳を二つ上げてもらっていいですか?」
「…おお!そりゃあいい!誰かと一緒なら気も晴れるだろう。頼むよ、波瑠ちゃん!夏生坊ちゃんに食わせてやってくれよ」
「はい。なるべく高カロリーなものをお願いします」
「よし!」
久し振りに見た板さんの笑顔に元気を貰い、調理場を後にして廓へ向かおうとした時だった。
「波瑠ちゃん」
鈴の鳴るような可愛らしい声にピタリと足を止める。
ゆっくり振り向くと、夜用の女将の装いをしたおばさんがいつもの柔らかい笑顔で私を見ていた。
「…おばさん」
おばさんの顔を見るのはあの日以来で、つい身体が強張ってしまう。
おばさんは眉を少し下げながら私の前に立った。
「夏生、食べてないって聞いたけど…波瑠ちゃんには色々と迷惑かけるわね。ごめんなさい」
「ううん、迷惑だなんて…」
「あの子、何でもなさそうに見えるけど意外と神経質なところがあって…。どうしているのかと心配してたけど、波瑠ちゃんがいてくれて良かった」
儚げに笑いながら着物の袖で目尻を押さえるおばさんに目を見開く。
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