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「あらあら…」
おばさんが口を袖で押さえながら笑う。
おじさんに言ったら怒り出しそうだけど、おばさんなら応援してくれると思ってた。
「そんなの、駄目よ」
「えっ…」
だから、おばさんの言葉に目を見張る。
笑っているから冗談かと思った。
「波瑠ちゃんに夏生なんて、申し訳ないわ。波瑠ちゃんにはもっと良い人が現れるわよ」
「…おばさん?」
「今傍にいる同年代の男の子って夏生ぐらいだものね。毎日顔を合わせるし、恋愛感情が芽生えたのだと錯覚しちゃうのも無理はないけど」
「……」
「そうだ、誰か従業員の息子さんを紹介してもらおうか。いずれ『鳳来』へ来るんだもの、今から知り合ったって良いんじゃない?」
ね?
そう言って同意を求めるおばさんの顔には見覚えがある。
貼り付けたのような笑顔。
…まだ私が『鳳来』について何も知らなかった頃に向けられた、能面のような顔。
寸分たりとも狂わない笑顔に背骨の中心をゾクゾクとしたものが勢い良く駆け上り、最後に肩がぶるりと震えた。
「夏生は駄目よ。波瑠ちゃんはお利口だから、わかるわよね?私が天国の加江さんに怒られちゃうわ」
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