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『そうしないと加江さんに怒られるんだろ?』
おばさんの抑揚のない声と、夏生のぶっきらぼうな声が被って、頭の中で何かが弾けて――
「おばあちゃんの名前を出さないで…!」
気付けば怒鳴っていた。
おばさんの顔から嘘臭い笑顔が消えて目が見開かれる。
賑やかだった調理場がシンと静まり返り、皆の視線が集まるけど私はおばさんから目を離さなかった。
「…そんな風に、なっちゃんと同じ言葉を使わないで」
全く違う意味合いなのに同じ言葉を選ぶなんて…やっぱり親子なんだなぁと思う。
だからこそ、どうして。
「…皆の仕事の邪魔になるから、事務所へ行きましょう」
私に背を向けて歩き出すおばさんは、今どんな顔をしているんだろう。
誰もいない事務所は冷え冷えとしていた。
いや、冷たく感じるのは向かい合うおばさんの顔が真顔だからだろう。
とはいえ、さっきの能面みたいな顔より全然良い。
「女同士の話をしましょうか」
「…いいよ」
「波瑠ちゃん、夏生のこと本気なの?」
「…おばさんはなっちゃんの何が気に入らないの?御贄を冬馬くんに押し付けて、楽してると思ったから?」
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