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机に思い切り叩き落ろされたのは細い腕で。
着物の袖が下りると共に机の上の紙が滑り落ち、私の足元にも散らばった。
だけどそんな事、気にしてられない。
「私がどんな想いであの子の成長を見てきたと思っているの…!」
おばさんの肩が悲痛な叫び声と共にぶるぶると震えるのを、何も出来ずに息を呑んで見ていた。
事務所の中はしんと静まり返るのに、おばさんの声がいつまでも頭の中に反響する。
…私や夏生の知らないおばさんの想いを知りたくて、眉を寄せる横顔を見つめた。
おばさんは目を閉じるとゆっくりと口を開く。
「…夏生のお嫁さんは強欲で生意気で私と仲良くしてくれない、とても可愛くない子って決めてるの」
「え?」
「…そんな子じゃなきゃ嫌なのよ。波瑠ちゃんじゃ、駄目」
突然何の話だろうと思ったけど、「駄目」ばかり言われると反抗したくなる。
私はこんな場面でもまだまだ子供なんだと思う。
「私、なっちゃんと結婚したいと思ってる」
「波瑠ちゃん」
「理由を教えて。教えてくれないとなっちゃんと一緒に廓に閉じこもっちゃうよ」
「……」
おばさんが怒ったような呆れたような顔で私を見た。
この顔は、写真に収めてやりたいくらい夏生にそっくりだ。
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