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紙の乾いた音と穏やかな空気が事務所を包み込む。
穏やかだと思ったのは、おばさんの表情から余計な力が抜けていたからだ。
「忙しさを理由にあまり関わらないでいるつもりだったんだけど…。でもあの子ったら、小さい頃からやんちゃ坊主で危なっかしくて目が離せないのよね」
「…わかります」
「いろんな人に怒ってもらったけど、全く懲りないしね。結局私も夏生に口を出す羽目になっちゃって…ほんともう、人に迷惑ばっかり掛けるんだから」
困った子なのよ、と言いながら、おばさんはとても楽しそうに夏生の話をしてくれる。
田んぼの水をせき止めて近所の家の田植えを遅らせたり、先生の机の中に蛇の脱け殻を仕込んだり。
特にうちのおばあちゃんにしょっちゅう怒られては、おばさんが後で謝罪に来たらしい。
「一番頭に来たのが学校の石像の首を落とした時かしら。覚えてる?あの子、自分では一言も謝らずに冬馬に頭を下げさせたのよ」
「………その犯人、本当に冬馬くんらしいよ」
「えっ」
「……」
「……」
私を見ながら目を瞬いたおばさんが小さく息を吐いた。
「…やだ。私、あの子達二人の言葉を信じてあげなかったのね。母親失格だわ」
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