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「なっちゃんは自分の為って言ってた。それに、私も同意してる。冬馬くんを説得して夏生が御役目様になったら、私が夏生の世話役としてずっと廓にいるから」
夏生の気持ちを優先したくて、決定事項のような言い方をしてしまった。
するとやはり、おばさんの瞳に動揺が走る。
でも、何も反論は出来ないだろう。
「そしたらほら、私と夏生、結婚出来ちゃうでしょ?」
冬馬くんが帰ってくるとは言え、二度も息子を『鳳来』に捧げる痛みを味わうのだ。
だからなるべくおちゃらけて言うと、おばさんは少しの間を置いてから小さく笑った。
「そう…。あの子の傍にいてくれるのね」
「うん。ずっとね」
「あの子は…独りじゃないのね」
「私がしつこく張り付くから、そうなるよ」
「波瑠ちゃん、」
おばさんがしゃがんだまま私の手を取り、ゆっくりと頭を下げる。
伏せられた睫が震えていた。
「ありがとう。私も協力します。…どうか、夏生を頼みます」
上げた顔は強い母の目であり、女将の逞しさが溢れ出ていた。
こんな凛々しい顔は初めて見る。
きっと、何か吹っ切れたんだ。
手を握り返し、視線を強く絡ませながら頷いた。
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