死屍累累

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  「……なんだこりゃ」 膳を前にした夏生が小鉢の縁に貼り付けられた付箋に気付き、それを手に取り顔に近付け…眉を寄せた。 膳を運んだ私はその付箋に書かれた内容を知っているから、横で冬馬くんが眠っているにも関わらず思い切り吹き出してしまった。 『ミョウガ残したらメッ!よ』 付箋に書かれたメモは、綺麗な字と内容のギャップが激しすぎる。 「メッ!だって」 「笑いすぎ。これ、お袋の字だな。…いい歳して「メッ」とか言うか普通」 「いい歳して「メッ」て言われてる人なら目の前にいるけど」 「……」 夏生はじろりと私を一瞥すると、何も言わずに箸を取って食事を始めた。 だけどやはりミョウガの小鉢には手を着けないらしい。 「まだミョウガ食べられないの?大人なのに。秋ミョウガ、美味しいよ?」 「うるさい、早く食え。仕事始まるぞ」 「おばさん、なっちゃんがミョウガ食べてないこと知ってたんだね」 「……」 夏生は一瞬だけ箸を止めたけど、「そうだな」と呟くと再びご飯を掻き込んだ。 茶碗から見える夏生の顔が赤く染まって見えるのは、行灯のせいじゃないということを私は知っている。  
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