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つい、さっき。
おばさんとの話を終えて事務所のドアを開けると、すぐそこの壁に寄りかかるようにしておじさんと夏生が立っていて驚いた。
この距離ならもしかしなくても話は聞こえていただろう。
おじさんは私に笑顔を見せた後、私の背後に慈しむような視線を投げる。
おばさんと視線を交わしているんだろう。
夏生はと言えば、どういう顔をして良いのかわからないといった顔で立ち尽くしていた。
「…二人とも、どうしてここに?」
「いやなに、たまたま通りかかったんだ」
…絶対ウソだ。
だって、おじさんの目はあらぬ方向を向いている。
その目からはバチャバチャと音が聞こえそうだ。
おばさんはそれを気にする様子もなく、ゆっくり夏生を見た。
「夏生」
「…なに」
一瞬だけピリッとした空気が流れる。
これはきっと、夏生の緊張だ。
「…廓を頼むわね。あまり波瑠ちゃんに我が儘を言って迷惑を掛けないように」
「わかってるよ」
夏生が話を断つように一歩踏み出し、私の手を取ると二人に背を向けて歩き出した。
私はもう少し話をして欲しくて夏生の背中とおばさんの顔を交互に見た。
だって、今なら何かが変わると思ったから。
聞いてたんなら、尚更だ。
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