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だけどもう、この親子には私の心配なんて杞憂に過ぎなかった。
「…夏生には辛い思いをさせてしまうわね。…いつも、ありがとうね」
背後から聞こえたおばさんの心からの言葉に、脳天から足先までじんと痺れて足がもつれそうになった。
夏生は振り向かないし、足を止めない。
でも夏生の手がピクリと反応したことを繋がれた部分から知り、私の位置からは夏生の赤くなった耳が見えていた。
「ま、待ちなさい夏生!て…て…手を繋ぐなんて、まだ早過ぎるだろう!」
「何を言っているの、あなた。手ぐらいでそんなに目くじら立てて」
「ダメだ駄目だだめだ!夏生!その手を離せ!許さんぞ!」
「いいからあなた達は早く戻ってご飯食べちゃいなさい。この時代錯誤な人は私が何とかしておくから」
「まだ冬馬が起きん以上、ふ、ふたりっきりにさせてはおけん!菊ちゃん達にもう廓に入ってもらうよう連絡してくれ!」
「時間外労働はさせません」
おじさんとおばさんの賑やかな声がいつまでも聞こえてきて、夏生の隣を歩きながら胸がいっぱいになるのを感じた。
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