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「お前、ほんと余計な事ばかりするよな」
夏生が箸と汁椀を同時に置き、膳を自分の横にずらした。
見ると、ミョウガの小鉢を残し後は綺麗になくなっている。
良く噛んだのかな。
早食いは相変わらずらしい。
「余計な事って?」
「余計な事」
オウム返しにムッとしかけたけど、夏生が優しい目をしていたからその気が失せた。
夏生が少しでも穏やかでいられるなら私も嬉しい。
緩みっぱなしの口元を隠しながら私もお茶を啜った。
「ごちそうさま。なっちゃん、お風呂いくでしょ?」
「波瑠」
二つの膳を重ねて持ち上げようとした時、名前を呼ばれて顔を上げた。
と同時に手を掴まれ、軽く引かれる。
――あ。
掠めるようにして触れた唇に目を見開く。
目の前の瞳には行灯の火が映り、熱に浮かされたように揺れながら私を見ていた。
「…俺が片付けてくるから、波瑠は冬馬見てて」
「…あ、うん。わ、わかった」
何事もなかったように膳を抱えて座敷を出て行く背中を見送ってから、指でそっと唇に触れてみる。
………。
夏生とキスしちゃった…。
廊下の提灯なんかより真っ赤になっている自覚があって、冬馬くんの傍らに座りながら手で顔を仰いで上がりきった熱を下げていた。
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