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「これは」
「おにぎり」
「…何が望みだ。地位か、富か」
「そういうの良いから」
わらしの膳の真ん中に鎮座するのは、二つのおにぎり。
海苔も付いてなければ具も入っていない、ただの塩むすび。
これをわらしに出し始めて三日、冬馬くんが深い眠りについてから九日が経った。
わらしは毎回、富がどうとか望みがどうとか、同じことを聞いてくるからそろそろうんざりしてくる。
「世話」
わらしが横に座る夏生に声を掛けると、夏生は不愉快そうにわらしに目だけ向けた。
「良いんだな?」
「しょうがねえだろ。コイツは頑固者なんだよ。そもそもお前が酒以外口にしないのが悪い」
コイツ、と言いながら夏生が私を指差した。
というのもこの歪なおにぎりは私が個人的に握ったもので――つまりはわらしと直接取引を持ち掛けている、という事なんだけど。
思い付いたのは三日前。
痩せ細った冬馬くんの身体に遠慮無くお酒を流し込み、女郎さん達と夜を共にするわらしに頭を悩ませていた。
今まで大人しくしていた分を埋めるような行動に、何より冬馬くんの身体が心配になる。
そこで単純なことに気付く。
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