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「変わったこと、ない?」
廓の出入口まで送ってくれた夏生が心配そうに尋ねる。
これで私は四度直接取引をしたことになる。
当然のように現代最多だ。
そうなると膨大な恩恵が生まれるはずだと踏んでいるんだろう。
「今のところはね。学校とここを往復するだけだし、わらしの恩恵効果も私の隙を見つけられないのかも」
「そんな甘いもんじゃない」
へらへらしていたら怒られた。
首を竦める私の耳に盛大な溜め息が聞こえる。
「…こんな危険なこと、本当にさせたくないんだ」
「わかってる、ありがとう。でも大丈夫だよ」
「お前の大丈夫って言葉ほど信用ならないものは無いからな」
「ひどい」
小さな声で笑い合った後、会話がぷつりと途絶えた。
すると瞬く間に廓独特の沈黙に包まれる。
「……」
「……」
先程までの穏やかで僅かに甘さを含んだ時間が、たちまち緊張感のあるものへと変わる。
私が「じゃあまた明日」と言えば済むんだけど…。
何となく、このまま帰るのは寂しい気もする。
ちらりと夏生を見上げると、夏生は顔を背けた。
「…その顔、やめろ。そういうの、どこで覚えてくるんだよ」
「え?どんな顔?」
「……」
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