1543人が本棚に入れています
本棚に追加
/1229ページ
ブサイクな顔、とか言われると思って言い返す準備をしていたのに、意に反して黙り込まれると反応に困る。
夏生は文句でも言い出しそうな顔で私を見ると、「おやすみ」とだけ言い残して座敷へ戻っていった。
「……」
あの日のキスは何だったんだ、と思えるほど、夏生は私に触れなくなった。
近付いてもさり気なく距離をとられるし、手を繋いでもやんわりと離されるし。
嫌われてはいないと思う。
夏生の目は優しいし、こうして出入口まで送ってくれるし。
ただそんな雰囲気になりそうになると、不自然なくらい見えないバリアをめぐらすのだ。
夏生がひとりで、勝手に。
「…そのうち美緒先生に聞いてみようかな」
私はこの時の夏生の決意を知らないまま、のんきにそんな事を考えていた。
冬馬くんが目を覚ましたのは、これから二日後。
眠りについてから十一日目の、十月半ばの肌寒い日だった。
最初のコメントを投稿しよう!