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――「起きる」
その三文字が頭の中に浮かび、腰を浮かして冬馬くんの身体を必死で揺すった。
「冬馬くん!冬馬くん!!…ねぇっ!起きて…!」
起きて…!!
心の中でも叫んだ瞬間、冬馬くんの眉が寄って、長い睫毛が震えた。
「あっ…!」
ゆっくり持ち上げられた瞼の奥に、ゆらゆら揺らめく瞳がうっすらと見える。
すかさず柱時計に目をやった。
十七時半。
まだ、わらしの時間じゃない。
じゃあこれは、――
声を掛けることも忘れ息を呑んで様子を窺っていると、冬馬くんはしばらく宙を眺めてから再び瞼を閉じようとした。
「あっ」
思わず漏れた声に冬馬くんの黒目がゆるりと動き、私を捕らえた。
「…冬馬くん?」
「……、」
冬馬くんの渇いた唇が「はる」と動く。
その瞬間に私の中の喜びが爆発した。
「……!冬馬くん!」
飛びつこうとして、いや待てよそれは危ないと思い止まり、だけど嬉しくて握った手をぶんぶんと振る。
「良かった…!良かったよ…!どうなることかと思っちゃった…。…そうだ、夏生…なっちゃん呼んでくる!」
忙しなく立ち上がろうとした私を、冬馬くんの冷たい手が止めた。
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