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引き止める、というにはあまりにも弱々しい力で、思わず涙で視界が霞んだまま冬馬くんを見てしまった。
肉が落ちて血管の浮き出た腕が、私の手の甲を撫でる。
久し振りに見る冬馬くんの目が柔らかくて、声を上げて泣きそうになった。
「…は、る」
「うん、ここにいるよ。…喉乾いてない?身体起こそうか」
「ごめ…、」
「え?」
「…ごめ、ね……」
冬馬くんが小さく掠れた声で「ごめんね」と繰り返す。
…ああ、そうか。
わらしとの事だ。
私がわらしに襲われかけたのを申し訳無く思っているんだ。
「大丈夫だよ。冬馬くんが助けてくれたから。…本当にありがとう」
「……」
冬馬くんがゆっくり息を吐きながら瞼を下ろす。
心底安堵したような表情に、逆にこっちが申し訳無くなる。
「あの…私、謝らなきゃ。私のせいで冬馬くんが……冬馬くん?」
冬馬くんは下りた瞼をそのままに、口だけをゆっくりと動かした。
「……ごめん、とても眠い…。話の続き、また後で、いい…?」
「う、うん。ゆっくり休んで…」
少し喋っただけなのに、冬馬くんはエベレスト登山でもしてきたのかと思えるほど疲れ切った様子で、すぐさま寝息が聞こえてきた。
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