生きる

14/36

1543人が本棚に入れています
本棚に追加
/1229ページ
  「べ、別にたいした身体してないし、逆に申し訳なかったって言うか」 あわわ。 変なこと言った。 焦れば焦るほど自分が何を言えばいいのかわからなくなる。 「それに、ほら。ファーストキスの相手が初恋の人だなんて、むしろラッキーだよ、うん。中身はわらしだったけど、でも肉体は冬馬くんだし、だから、……」 「……」 「……だから、えーと…」 「……」 気まずい沈黙が私を潰しにかかる。 なんか口が滑りまくって余計な事ばかり言っている気がするけど、今伝えたいことはそんなことじゃなくて。 「あの…気にしないで。本当に。菊さんの助言で犬に噛まれたつもりでいるんだから」 「犬」 ふっ、と冬馬くんが小さく吹き出して、やっと張り詰めた空気が和んだ。 冬馬くんが痩せてしまった顔を上げる。 でもその目は以前と変わらず優しくて、私の気持ちを穏やかにさせた。 「ありがとう」 「え、いやそんな」 「…食事もありがとね。お陰で回復も早かったんだと思う。でも無茶しすぎ」 「ごめんなさい」 …とは言ってみたけど、冬馬くんは放っておいたら食べなさそうだから、わらしへの食事の用意は続けたいんだけどな。  
/1229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1543人が本棚に入れています
本棚に追加