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「べ、別にたいした身体してないし、逆に申し訳なかったって言うか」
あわわ。
変なこと言った。
焦れば焦るほど自分が何を言えばいいのかわからなくなる。
「それに、ほら。ファーストキスの相手が初恋の人だなんて、むしろラッキーだよ、うん。中身はわらしだったけど、でも肉体は冬馬くんだし、だから、……」
「……」
「……だから、えーと…」
「……」
気まずい沈黙が私を潰しにかかる。
なんか口が滑りまくって余計な事ばかり言っている気がするけど、今伝えたいことはそんなことじゃなくて。
「あの…気にしないで。本当に。菊さんの助言で犬に噛まれたつもりでいるんだから」
「犬」
ふっ、と冬馬くんが小さく吹き出して、やっと張り詰めた空気が和んだ。
冬馬くんが痩せてしまった顔を上げる。
でもその目は以前と変わらず優しくて、私の気持ちを穏やかにさせた。
「ありがとう」
「え、いやそんな」
「…食事もありがとね。お陰で回復も早かったんだと思う。でも無茶しすぎ」
「ごめんなさい」
…とは言ってみたけど、冬馬くんは放っておいたら食べなさそうだから、わらしへの食事の用意は続けたいんだけどな。
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