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あのわらしが、個人の名前を口にした…?
「だ、誰?その、ちづ乃って」
「うん、あの時も波瑠はそうやって聞き返したんだ。それだけだよ」
「…それだけ?」
「うん、それだけ。僕にもちづ乃が何者なのかわからないけど、座敷童様にとって心の奥底に仕舞ってあった特別な名前なんだと思う」
「…特別」
わらしに、「特別」?
わらしは私が何度言っても人の名前を呼ばない。
覚えない。
覚える気がない。
それがわらしのポリシーとすら思っていた。
今までずっとそうやって過ごしてきたんだって。
…だけど、ちゃんと心の中に持っていたんだ。
「波瑠に指摘された瞬間、座敷童様は我に返ったように心を閉ざされた」
「……」
「波瑠」
呆然とする私の手に、冷たい掌が乗った。
冬馬くんが懇願するように私を見る。
「…あんな事があった後でとても頼みにくいんだけど、…どうか、座敷童様を見放さないでやって欲しい」
「え…、え?」
「波瑠と一緒にいた時に感じてたんだ」
冬馬くんは私の手を離し、自身の薄い胸に当てる。
丁度、心臓の上だ。
「…ここが、とても暖かかった。座敷童様の『生』を感じたんだ。座敷童様は、波瑠に確実に心を開きかけてた」
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