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…今は、全く。
冬馬くんの言葉の意味を脳内で咀嚼して、唾と一緒にゆっくり飲み込んだ。
顔を上げると不安そうに揺れる夏生の目が、私をじっと見ていた。
私に出来ること。
…答えはもう決まっていた。
「…冬馬くん、取引しよう」
夏生の目が大きく見開かれる。
ごめん、と胸の中で呟き、冬馬くんに向き直った。
「私が毎日わらしに食事の用意することを認めてくれる?」
「座敷童様との直接取引を続けるということかい?良いよ」
「兄貴…!この野郎、簡単に頷きやがって…!」
「冬馬くんも、用意された食事は必ず食べるって約束して欲しい」
「約束しよう」
「なら、」
「おいコラ待て!!」
話を進める私達の間に立つ夏生が怒鳴り声を上げたけど、私と冬馬くんは視線を絡ませたまま動じなかった。
「このまま御役目様をお願いできる?」
「いいよ」
柔らかく上がる口角。
選ばれる自信があったんだろうに、冬馬くんの笑顔には厭らしさがひとかけらもない。
普段、わらしと冬馬くんの間にどんなやり取りがあるかわからないけど、わらしもきっと、こんな冬馬くんに心を許しているのかもしれないと思った。
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