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「往生際が悪いよ、夏生」
いつまでも文句を言う夏生に冬馬くんが冷たい視線を投げる。
私は黙ったまま俯いていた。
協力する筈だった私が突然寝返ったことで、夏生はもう何を言っても無駄な立場になってしまった。
…申し訳ないと思う。
夏生の覚悟を知っていながら、それを無視してしまったのだ。
「しつこい男は嫌われるよ。直に波瑠に捨てられるんじゃないの。そんな事より、風呂」
風呂、と言いながら手を伸ばすと、夏生が不機嫌な顔のままその手を取った。
そして肩を貸し、ゆっくりと立ち上がらせる。
…一人じゃ動けないんだ。
「…冬馬くん、大丈夫?」
「こんな状態の奴に御贄を任せるのは心配だろ」
夏生が同意を求めるように私を見たけど、冬馬くんは気にしない様子でにっこりと笑って言った。
「心配ないよ。肋(アバラ)にヒビが入っているらしいから、少し痛むだけなんだ」
「え!?」
「……」
冬馬くんの言葉に夏生が口を閉ざし、気まずそうに目を泳がせる。
それで確信する。
その怪我は、夏生がわらしの脇腹を蹴り飛ばした時のものなのだと。
「ご、ごめんなさい」
「波瑠が謝るような事はないよ。じゃあ、また後でね」
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