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「、あの…」
「なに」
目を泳がせる私に構うことなく、夏生は私の髪を耳にかける。
跳ねた肩を誤魔化す為に僅かに身体を捩った。
「な、なっちゃん」
「だから、なに」
不機嫌そうに聞き返してくるけど、その掠れたような声に妙な甘さを感じて堪らず目を逸らした。
…夏生が、おかしい。
今まで恋人らしい雰囲気になったことはあるけど、こんな夏生は初めてだ。
指が、耳を撫でる。
何回も手を繋いだし、しっかりと抱き合ったこともある。
でも、そんなものとは比にならないくらいの、いや、全く違う――不道徳的、そう、何故か不道徳的な感覚が私の中を支配していく。
何の罰かと思える程に。
「お、怒ってるの?」
「はぁ?何言ってんだよ」
「だって、なんかいつもと違う」
無理矢理声を張ってみたけど、夏生はこの空気を変えるつもりはないらしい。
「…どう違う?」
耳にあった手が私の頬を包み、夏生が顔を寄せた。
夏生の切れ長の目が私を捕らえて離さない。
だから、一ミリも動けなかった。
近すぎてぼやけた視界の中、夏生が目を伏せたのがわかる。
目を背けたくなるくらいの淫靡な雰囲気のまま、私の唇と夏生の唇が重なった。
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