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気持ちに余裕が出てきたら、夏生の言うことも一理あるかなと思えてきた。
逃げていいよと言われれば、ヘタレの私はきっと夏生を避けてしまうだろう。
夏生は私より私の事をわかっている。
言われていることの恥ずかしさより、嬉しさが勝った。
「それなりの事、それなりに勉強しとけよ」
「う、うん。実は本宅の部屋に特集雑誌が沢山あるの。ちゃんと読んどく」
「本って発想がガキ臭いけど」
「だってそれしか知識を得るところが…あ、教えてもらうって手があるよね」
「…誰に」
「直純さ、」
「お前俺を殺す気か」
凄い勢いで睨まれた。
本気で拒否する目にたじろぎながら「じゃあ菊さん」と言い直すと、夏生は眉間に皺を寄せて悩むような仕草を見せてから渋々頷いた。
…女郎さん達に相談すると、大騒ぎになるんだよね。
直純さんなら落ち着いて相談に乗ってくれそうなのに。
何よ「殺す気か」って。
「美緒にも報告しなきゃ」
「は…?」
「報告義務があるから」
すっかり調子を取り戻した私達は沢山の話をした。
だけど仄かに今までとは違う空気を纏っていて、変わっていく自分達を確かに感じる。
もうあの頃の私達には戻れないと思うと寂しいけど、私は進む道を選んだ。
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