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まず欠伸が出る。
これは癖のようなものだ。
手を添えて首を鳴らしていると、部屋の異変に気付く。
「…どういう事だ」
俺の背後の壁には、有るはずの無いものが――窓が設えられていた。
雲から顔を出した丸い月が柔らかな光を落とし、夜露に濡れた木々を照らす。
暫く振りに見る月は、暖かな春の日の朧月のように霞んで見えた。
「…妙なこと考えるなよ」
俺の世話をする男が隣に立った。
妙なこと、とは、外に出る事を望むなということだろう。
そもそもそれを危惧してこれまで徹底してきたであろうに、何故窓など。
どんな風の吹き回しだ。
不要な釘刺しをする暇があれば、さっさと状況を説明すべきだろう。
ここの主は俺なのだから。
「出る気が無けりゃいい。好きなだけ眺めてろ」
およそ世話役とは思えぬ言葉を言い置いて男は立ち去った。
ひとりになったところで、改めて窓を見る。
丸く切り取られた空間に竹の飾り格子が縦横三本。
明らかに外を眺める為の窓だ。
決して大きな窓とは言えないが、はめ込まれた硝子の丈夫さは折り紙付きなのだろう。
出て行かれては困ると言わんばかりに、丸窓の四隅には無粋な札が貼られていた。
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