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俺が出ようと思えば硝子も札も何の意味を成さぬ。
人間共にそれを伝えればさぞかし青くなるだろう。
くすくすと忍び笑う声が聞こえ、眉間に力を入れた。
あんな目に遭ったばかりだというのに、この贄はまだ俺に語りかけるか。
これだけ煩い贄は初めてだ。
――その窓、あの子がぶち抜いたんです。たっぷり覗いてやってください。
あの子も喜びます。
「ぶち抜いた…?」
つい口に出して聞き返してしまったが、贄は笑うだけだ。
贄を煩わしく思ううちに、あれが来た。
俺の世話をする筈の男が護衛の如く共に入ってくる。
「わらし、お待たせ」
短く揃えられた髪に若草色の小袖。
畳の縁をお構いなく踏んで歩く姿は餓鬼にしか見えん。
その手にはやはり食事の膳があった。
「女。この窓は何だ」
そう話し掛けると待ってましたと言わんばかりに女の顔が輝いた。
「今日、満月なの。十月の満月も綺麗だよね」
「…」
話が噛み合わん。
文句を言う代わりに目を細めるが、女は気付いていないようだ。
「山しか見えないけど昼間見る景色も綺麗なんだよ。でも夜だからやっぱりよくわからないね。月が出てなければ何も見えないかも…」
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