1543人が本棚に入れています
本棚に追加
/1229ページ
肩までの髪の女が俺の隣に座り、眉を垂らしながら窓の外を覗く。
…この女に植え付けた筈の恐怖は、知らぬ間に薄れているらしい。
世話役の男は能天気な女と違い、警戒心露わに俺を睨み付けていた。
そんなに大事な女なら、この座敷に近付けさせなければ良いものを。
「ライトアップとか出来ればいいんだけど、お客様に不審に思われるのも困るから」
「…ライトアップ?」
「うん。全体に灯りを当てて、夜でも景色を楽しめるように…」
「無粋な事をするな。何も見えぬ夜などありはしない」
「そうなの?妖怪って凄いね」
星や雲、音や風の匂いの話をしていたつもりなのだが…まぁどうでも良い。
「これから紅葉が始まったりして、どんどん寒くなるよ」
そう言われて初めて気付いた。
贄の肌が、随分冷えている。
…それに、先程から感じている僅かな匂い。
懐かしい匂いに俺の中の何かが騒いでいた。
「寒い?羽織り持ってくるね」
「…いらん」
「わらしは良くても冬馬くんが風邪ひくでしょ」
女が座敷を出て行くと世話役の男が小さく溜め息を吐き、俺の前に乱暴に座る。
「空調を最小限に抑えた」
「空調?」
最初のコメントを投稿しよう!