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「その窓は開かないけど、他から外の空気をガンガン入れてる。真冬は極寒だから覚悟しとけよ」
…ああ、これは、やはり。
湿った風に秋の甘さが混じる。
そんな匂いは百年経っても覚えているらしい。
土と草の匂いに外の情景が次々と頭の中に流れ込み、くらりと眩暈がした。
「あいつが、お前に季節を見せるんだって」
「…何のつもりだ」
「知るかよ。俺は一応反対したんだけどな」
「女の言いなりか」
「しょうがねえだろ。そいつに賛同されたら俺の立場じゃ何も言えねえし」
そいつ、と言いながら世話役の男が顎でこちらを指し示した。
面白くなさそうに眉間に皺を見せているが、その割には苛ついているようには見えん。
それどころか、どこか気持ちが舞い立っている。
…大方、さっさとあの女と二人きりになりたいのだろう。
俺の視線に気付いたのか、男は更に不機嫌な表情を作って見せた。
「餓鬼が、いちいち浮かれるな。見苦しい」
「何とでも言え。つーかクソわらし、二度とあいつに手を出そうだなんて思うなよ」
またその話か。
贄も毎日のように念を押してくる。
いい加減うんざりだ。
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