中、染めし

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  「貴様が廓を離れれば了承してやる。世話をする人間は一人居れば良い」 ここは煩い人間が増えた。 俺は静かに過ごしたいのだ。 「はあ?何で離れなきゃいけないんだよ」 「あの女はもう廓から離れられん。貴様は贄になる可能性が無くなったのだろう?なら貴様はここに留まる意味など無い」 「俺にはお前の暴走を止めるっていう役割があるんだよ。冬馬も波瑠もお前に甘過ぎるからな。餓鬼の教育には一人ぐらい叱ってくれる厳しい大人が付いていた方が良いだろ」 どっちが餓鬼だ、と言いかけたところで、身体の中にいる贄がくすりと笑った。 …小奴らもあの女も、一体何を考えているのかさっぱりわからん。 要は俺の平穏は却下され、暫くは煩い三人に囲まれる日々を過ごさねばならんらしい。 ここの主は誰だ、という皮肉を言う気も失せ窓の外を見る。 静かな秋の夜。 虫の音が風に乗って今にも耳に届きそうだった。 これは俺には必要の無い世界。 俺が見るべきでは無い世界。 俺を必要としていない世界。 『わらし、お待たせ』 ――聞こえる筈の無い声に、腹の中で何かがぞわりと蠢いた。 今宵、朧月との逢瀬にて 裏弐巻へ続く  
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