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茹だるような暑さが続いた何日目か。冷房の利いた屋内のカフェ(マグメル経営)でデボラはぐったりと伸びていた。向かい側には少しウェーブのかかった金髪マッチョのいい男、ガイアがパタパタと手で扇ぎ、その両隣りには腕を組んでうたた寝する狼皇と、暑さで半ば放心状態のスティアが居た。
『暑い…温暖化パネェっす…』
ぐったりとしたままデボラが呟く。
『そう言えばダリーヤ遺跡群近くの河が干上がって橋が崩落したらしいな』
ガイアが思い出したように言う。
『マジっすか…温暖化パネェっす…』
『…デボラ、お前聞いてないだろ?』
『はい?何か言いました?』
『いい…、お前は静かに伸びてろ』
暑さで三分前の記憶すら曖昧のデボラ。これ以上の会話は無意味だろうと判断したガイアは自ら話の腰を折った。
『ん?デボラか?』
とそこへ、モヒカンタンクトップの日焼けマッチョが現れ、デボラは視線を上げる。
『えっと…誰?』
人を覚えるのが苦手と自負しているデボラだが、全く見覚えがない。しかしながら、このマッチョがデボラの事を知っている以上、知人である事に違いは無い。
『ん?そうか、いつもと格好が違うから分からないか』
『?』
『俺だ、《ロキ》だよ』
『うっそだぁ!?』
ガタッとデボラは立ち上がり、勢い余って椅子がコケる。ついで狼皇が目を覚まし、仮死状態のスティアが還ってきた。
ロキと名乗ったこの男性、確かにデボラの知人だ。しかし普段はゴツいヘルメットにゴツいスーツを着ているために、顔見せは今回が初めてになる。
『いやいや、どうしちゃったの?脱皮?』
キョトンとしたデボラの口から出た言葉がそれだった。
『最近は暑いからな、あの狭いコクピットであの格好は熱中症になる。だから今は軽装してる』
それに対するロキの答えはまともだった。
『はぁー…はっ!!そうだアンタ!重火専辞めちゃったの!?』
デボラがふと思い出した疑問をぶつける。
『ん?言ってなかったか?』
『聞いてないよぉ!ワァァァァ!!』
わざとらしく机にうずくまり泣いたフリをした。さほど傷付いてはいないらしい。
『やれやれ…』
嘆息混じりに言うとロキはその場を後にする。
『ドコ行くの?』
視線だけ送りデボラは聞いた。
『仕事だ。最近になってヘヴィマインの使い方をようやく覚えてな』
『ヘヴィ…キィサマァ!?支援兵装なんぞ使っとんのかや!?』
デボラが野犬の如くロキに襲いかかった。
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