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二機のツェーブラは中世の決闘よろしく、マーシャルソードだけでひたすら斬り合った。互いに一歩も引かない攻防戦は、事情を知らない第三者の乱入によりごちゃごちゃになる事もあったが、二人は互いを見つけては斬り合った。
しかし僅かに顎付きの方が上手で、スティアは徐々に敗戦を重ねる。そして次第に冷静さを取り戻し、違和感を感じ始めた。
(何だろう、負けたのに悔しくない…)
今まで感じた事の無い感覚。ヤられればいつだって少しは悔しさを感じていた。しかし、今はそれを微塵も感じない。
(ツェーブラって、ここまで器用に立ち回れるんだ…)
戦いながら見ていた相手の構成、同じツェーブラでも型番で性能の大きく異なるこのシリーズは、特化させる要素によって仕様が変動する。しかし、耐久性という面では僅かな変動しか無い。41シリーズになれば若干上がるが、それ以前のシリーズは一般的な標準機より若干低い。
そしてスティアの一本角とこのボーダーの顎付きとでは、スティアの機体の方が耐久性は優れていた。それをこのボーダーは技術面でカバーしているのだ。
一撃を貰う度に感じるこのボーダーの芯の強さ。武器や機体の性能に頼りきるのではなく、自分自身のスキルを磨こうとする向上心。
そういった、武人の心得のようなものが、相手のマーシャルソードから伝わってくるのが分かる。
『!!』
ダッシュ斬りを避けられ、背後からの強い衝撃を受け、スティアのツェーブラが宙を舞う。
『…』
大地に大の字に転がり、青空が視界を覆う。と、視界の端に顎付きの機体が映る。スティアの傍にしゃがみ込み、二回程屈伸をすると、再びその場にしゃがみこんだ。
『!!』
スティアはそのボーダーが、一方的に勝負を持ちかけた自分に敬意をはらってる事に気付き、本人の意志とは関係なく涙が流れた。
何の涙かは自分でも分からない。しかし、この涙の奥底に、嬉しいという感情があるのは理解できていた。
戦闘が終わり、各自撤収を始める。機体機能が停止している彼女の機体は味方機が担いで回収した。味方に担がれるスティアの機体を、そのボーダーは最後まで見送る。スティアはその視線にも気付き、嗚咽を漏らしながら泣いた。
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