*誘声~the shout boy~

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 廃工場についたのは良かったのだが… 「暗い…」  工場を照らすのは仄かな青白い、空からの明かりのみだった。中途半端な暗闇に冴えた目で工場の周囲に人がいないことを認識する。 「…同志なんか集まるのかね。」  半ば落胆しながら近くにあった階段に腰掛ける。今にも崩れそうな程コンクリートは落ち、骨組みが晒されている。座り心地は悪い。  暫く待っても誰も来なくて暇潰しに工場の外観を見て回っていた。 すると、丁度工場の裏側に来たあたりで奇妙なものが目に映る。 「遅刻してしまう!!」  何に遅刻するんだ?と思った火竜は少し頭が冷静なのかもしれない。  慌ただしく走り回るスーツ姿。懐中時計を片手に小さな歩幅で頑張って走っている。此処までは別に構わないだろう。  それが…二足歩行の…兎であるなど夢のようだ。  あの兎を追い掛けなきゃいけない。  何故だかわからない。何故か、そう感じた。  記憶は曖昧で…その時の彼は何故かひたすら兎を追いかけていた。  結構な距離を走った。そんな時、兎が急に立ち止まった。  何があるんだ?  意識を兎に集中させすぎたせいか、間抜けな事に転びそうになった。いや、転んだと思った。  足場がない。と思った彼は、巨大な穴に足を踏み入れたらしい。  空が切り、足が自由になっる。  馬鹿みたいな死に方すんのかな。  自嘲気味に笑いながら最後に見たのは、悔しい程明るい世界だった。
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