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「暗っ!台詞が暗過ぎますよ、これ!」
それまでぼくが書いた小説の原稿用紙を読んでいたゆうこさんが、突然口を開いたかと思うと、そんなことをのたまった。
「そうかなあ?」
どうやら物を持てない彼女に代わり、目の前に差し出していた紙を引っ込める。
「そうですよ。なんですか、このままじゃ主人公自分で死んじゃいますよ!そんな小説がありますか!」
「あるんじゃないかな」
パラパラと。紙が風でめくれていく。
外――ぼくとゆうこさんは今、病院の屋上にいた。
少しすすけたコンクリート。飛び降り防止用のさびれた手すり。どこから種が飛んできたのか、合間に生える雑草。相も変わらず、白いシーツやタオルが無数にはためいている。まるで踊っているみたいだった。
ぼくは時々こうして、身体の調子がいいと時はここに来るようにしている。
理由は、まあ太陽が恋しいからとか風が気持ちいいからとか色々あるけど、一番は小説の為だった。
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