一日目②屋上

4/5
前へ
/100ページ
次へ
「自分で言うのも何ですが、私は可愛いさと明るさだけが取り柄の幽霊です」 「本当に自分で言うことじゃないよね」 「例えば――その小説を取ってみても、登場人物に理由なき行動は許されないんですよ。『なんとなく』とか、『別にいいや』は、それだけで糾弾される対象です。読者は常に理由と意味を求めているのですよ」 「現実では全てが全てに理由なんてあっていいはずがないのにね」 理由があれば納得できるのだろうか。そんな馬鹿な。生きているから死ぬ。そこに意味はない。 「……この場合の登場人物はかなちゃんです。読者は私です。さあ、理由をお答え願いましょうか」 登場人物に干渉する読者がいてなるものか。 という言葉はすんでのところで呑み込んだ。 ゆうこさんの瞳が思った以上に真剣だったからだ。 ぼくは、この短期間で空気を読む行為を覚えていた。 「うーん……まあ色々あるんだけど、第一にはゆうこさんが可愛いからかな」 やっぱり気のせいだったかもしれない。 「んま!」 ゆうこさん、真に受けていた。いやまあ、嘘ではないのだけれど。 「後はそう――身体目当て?」 「まさしく身も蓋もない!」 「まあ、冗談はここまでにして――」 「どこまでが!?」 先ほどゆうこさんが言った台詞をそっくりそのままなぞりながら、ぼくは自己分析を開始する。 「ねえ、可愛いの部分は本当ですか?本当ですよね?ねえ!」
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4157人が本棚に入れています
本棚に追加