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ゆうこさんのそんな声は無視するとして。
改めて何故かと聞かれると、当然ながらぼくも首をかしげてしまう。
それほどまでに動機の言語化は難しいものだし、何よりぼくは生来の考え無しなのだ。
理由が無いことが理由。そんな屁理屈とも矛盾とも取れる行動原理にして、混同倫理がぼくの中には、ある。
それでも。
それでも、だ。
敢えてそれに言葉を与えるとするならば――
「興味、かな」
「は、はい?」
「だから興味だよ。好奇心、探求心、コンピューターと人間の違い。ぼくは恋とやらをしてみて――知ってみたかったんだと思う」
まるで自分自身に確認するかのように。つらつらと。ぼくはゆうこさんの瞳を見ながら言葉を重ねる。
「命みたいな愛とか。愛みたいな命とか。そんなのを知りたい。知ることができると思った。それだけ――かな」
本心、だったと思う。
そもそもぼくは、どこからどこまでが本心で、どこからが嘘なのかという境界が、極端に曖昧な人間だけれども、その時は、何故だかそう思えた。
ゆうこさんは嫌いじゃない。たぶん、ぼくにはない物をたくさんもっている。けれど本当は――ぼくたちは似た者同士だ。
「そう――ですね」
しばらくして。
ゆうこさんがうつむくように頷いた。
「私もあなたの言うとおり、その命題の答えが知りたいです。ただ――」
上げられた小さな顔。浮かんでいたのは、
「私の場合はそれだけではありませんけどね」
優しくて暖かな、それでいてどこか大人びた笑みだった。
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