一日目③友達

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ぺらりと。 手元にある原稿用紙をめくる。 「この台詞は素敵ですねえ」ゆうこさんは長い髪を風に揺らしながら、本当に嬉しそうに言った。彼女はどうやら言葉通りにこの台詞を気に入ったらしいけれど、ぼくとしては首を傾げるばかりだった。 何故なら、ぼくはこの台詞があまり好きじゃない。 何というか、ある種無償の愛のようなものが感じられて、あまり共感できないのだ。 本当、自分で書いておいてだけど。 「ゆうこさんゆうこさん。すっごい今さらだけど、自縛霊じゃなかったの?」 「ですけど?」 「病室から出ていいの?」 「出られたからいいんじゃないですか?」 「いい加減だね」 「事実は小説より奇なりですよ」 「もの凄い説得力だね」 そして今。 ぼくとゆうこさんは、病院の廊下を練り歩いていた。 屋上に続く散歩だ。最近は何故かすこぶる調子がいいので、こうしてなるべく運動をするようにしている。ぼくはこう見えて、生きることに能動的なのだ。 濃緑のリノリウムの床が、ところどころひび割れているのが目に入る。古い病院だ。地震とか来たら、たぶん元気とか死にかけとか関係なしに、皆死ねる。死んで、しまう。 そう考えると、少しだけおかしくて、ちょっとだけ微妙な気持ちになった。 相変わらずぼくは、気持ちを言い表すのが苦手だった。
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