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ぺらりと。
手元にある原稿用紙をめくる。
「この台詞は素敵ですねえ」ゆうこさんは長い髪を風に揺らしながら、本当に嬉しそうに言った。彼女はどうやら言葉通りにこの台詞を気に入ったらしいけれど、ぼくとしては首を傾げるばかりだった。
何故なら、ぼくはこの台詞があまり好きじゃない。
何というか、ある種無償の愛のようなものが感じられて、あまり共感できないのだ。
本当、自分で書いておいてだけど。
「ゆうこさんゆうこさん。すっごい今さらだけど、自縛霊じゃなかったの?」
「ですけど?」
「病室から出ていいの?」
「出られたからいいんじゃないですか?」
「いい加減だね」
「事実は小説より奇なりですよ」
「もの凄い説得力だね」
そして今。
ぼくとゆうこさんは、病院の廊下を練り歩いていた。
屋上に続く散歩だ。最近は何故かすこぶる調子がいいので、こうしてなるべく運動をするようにしている。ぼくはこう見えて、生きることに能動的なのだ。
濃緑のリノリウムの床が、ところどころひび割れているのが目に入る。古い病院だ。地震とか来たら、たぶん元気とか死にかけとか関係なしに、皆死ねる。死んで、しまう。
そう考えると、少しだけおかしくて、ちょっとだけ微妙な気持ちになった。
相変わらずぼくは、気持ちを言い表すのが苦手だった。
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