一日目①序章

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「知らないけど、ぼくが余命いくばくもない患者さんだからじゃないかな?」 「――?何を――」 「ほら、別に死んではいないってだけで、生きてるとも言えないし。ああ、もちろんぼくだけなのかもだけど。他の人は皆必死だったしね。そういえば、ここに移る前にはそういう人達ばっかりだったなあ。懐かしい。絶望して、恨んで、苦しんで、頑張って、泣いて、喚いて、願って、請いて、ちょっとだけ悟って、喜んで、それでも結局は死んじゃうんだ。本当、命ってなんなんだろうね?」 「それは――」 ぼくとしては軽い世間話のつもりだったのだけど、何故か空気がシリアス化してしまった。おかしいな。こんなはずじゃなかったのに。 沈黙が流れる。 重い――こういうのを重い空気というのだろう。別に空気が重くなったわけではないのに、少し変だと思った。 「…………私は――」 ややあって。 ゆうこさんがゆっくり口を開く。 さっきまでの快活で軽率な雰囲気はもうない。 「私はその答えが知りたいんです。命って何なのか……だから――」 真っ直ぐな、視線。 底の知れない、どこまでも澄んだ――瞳。 矛盾。内包。決意。 「だから、私と――」 さくらんぼのような唇が、静かに力強く―― 「私と付き合ってくだしゃい!」 見事に噛んでみせた。
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