Film.2「白い肌と朱い血」

4/6
前へ
/28ページ
次へ
ゴクリ。ゴクリ。 渇いた喉を潤す快い音が静かな病室に響いた。 満足そうな彼女を見て、真珠の表情に笑顔が浮かぶ。 「そうだ、美花。この前、中学の同級生に会ったよ。」 真珠は水差しをテーブルに戻すと、ベッドの脇の椅子に腰を下ろして言った。 「ええ、誰に?」 蒼白い顔に透き通った瞳を輝かせて、ベッドの上の天使は尋ねた。 「ん~と、わかんない。ハハッ、あんまり知らない人だよ」 「フフッ。名前もわからないの?男の人?女の人?」 彼女は弱々しい笑顔を真珠に向けている。 それは、とても愛おしい笑顔。 「男の子なんだけど…イマイチ思い出せないのよね。まあ、会ったって言っても『久しぶり』なんて挨拶した程度だし。」 明るく活気に満ちた真珠に、聡明で儚げな美花。 この対称的な二人は、一卵性双生児。双子の姉妹だった。 病気を抱えている美花は、いつも入退院を繰り返していた。 浴衣から見え隠れする白い肌は、真珠の様に溢れる魅力がある訳ではなかったが、陰りのある美花の表情を色めき立たせ、「オンナ」の色気を漂わせていた。 「ねえ美花、髪の毛鬱陶しいでしょ。結んであげるよ。」 美花の身体を起こさせると、彼女の長い髪を櫛で梳き始めた。 「相変わらずキレイな髪ね…。」 優しく撫でる様に丹念に櫛を通す。 「洗ってないから汚ないよ。それに、真珠だって…。」 「私はバッサリ切っちゃったから。まあ、楽にはなったけどね。どう、美花も昔みたいに切っちゃったら?」 梳き終わった髪を束ね、おさげ髪へと編み込む。美花はじっとしたまま真珠の指先に意識を取られている。 「せっかく真珠の長い髪に憧れてここまで伸ばしたのに…。昔と逆になっちゃったね。私がロングで、真珠がショートで。」 「本当だね。昔の知り合いが見たら、きっと間違えるよ。ただでさえ同じ顔してるんだから。」 真珠は髪を編み終えると、そのまま後ろから美花を抱き締めた。 「ヘッヘッヘェ。ネエちゃん色っぽいやないか。どや、どや、オッチャンと付き合えへんか?金はあるでえ。」 そうおどける真珠の腕をしっかりと握った美花は緩ませた唇で呟いた。 「もう、バカ。」 白い景色の中、二人を温かな匂いが包んでいた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加